潜在意識に耳傾けて
潜在意識に耳傾けて
【2006年1月18日付読売新聞より引用・抜粋】
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【2006年1月18日付読売新聞より引用・抜粋】
1993年1月。福岡市南区の自宅で、作家の夏樹静子さんは突然、いすに座ることさえままならなくなった。ジンジンとした痛みが腰を襲った。
病院でレントゲンを撮ったが、異常はなかった。整形外科、内科、婦人科…。原因はわからず、整体や気功も試したが、症状は悪化する一方で、鎮痛剤も効かなかった。
1か月後、「鉄の甲羅を背負っているような全身の倦怠感」も加わった。週刊誌の連載小説や、月刊誌の短編小説は画板に原稿用紙を張り付け、腹ばいか横向きで執筆を続けた。移動の際の痛みを和らげるため、車では後部座席で横になり、飛行機でも横になるため2席を予約した。
2年たっても痛みは引かなかった。「もう治らないのでは。このままなら死んだ方がいい」。絶望感が心を覆った。そんな時、知人から、東京で勤務医をしていた平木英人医師(70)(心療内科)を紹介された。1995年8月のことだった。
自宅での問診後、「心身症」の診断が下った。「まさか」。原稿用紙で月に300枚執筆するなど仕事はハードだったが、好きなことをやってきた。発症直前はミステリー以外の作品に挑戦して評価も受け、満足していた。平木医師は続けた。「心を治すことが必要です」
「どうせ治らない」と思いながらも、年が明けた1996年に入院。「作家・夏樹静子の存在が病気の原因です。『夏樹静子の葬式』を出しましょう」。平木医師の提案を受け入れ、作家を辞める覚悟を決めた。不思議なことに数週間で、丸3年、苦しんだ痛みは消えていった。
「『疲れた。休みたい』と思った潜在意識が、幻の病気を作りだしたのです」と、平木医師は説明した。
うつ病などの精神疾患は、体にも様々な変調を引き起こす。強い身体症状にとらわれて精神面に潜む症状に気付かないケースも多い。心身症の夏樹さんがそうだったと考えられる。
身近な人の死や失業などのマイナス要因が、うつ状態を引き起こすと思われがちだが、平木医師は「環境の大きな変化や過重な負担があれば、結婚や昇進などのプラス要因でも起こりえる」とする。
8年前。当時、係長だった福岡県南部の市役所の男性職員(59)は、机につこうとすると不安になった。手が震えて字が書けなくなった。毎晩のように出口のない迷路に迷い込む夢に悩まされた。
うつ病で入退院を繰り返していた同僚がいたため、「心の病」については知識があった。仕事は激務だと感じていなかったが、「『これ以上頑張れない』というサインだ」と思った。
精神科の病院を受診。うつ病だった。抗うつ薬を服用し、1か月で回復。上司から打診を受けていた課長昇進の話は断った。「今の状態では、課長の重責に耐えられない」と考えた。
今も抗うつ薬は服用しているものの、一度も再発せず安定している。「あのまま走り続けていたら再発し、悪化していた」。昇進を断ったのは正解だったと思っている。
知らず知らずのうちに疲労は蓄積する。
「時に立ち止まり、潜在意識のささやきに耳を傾けるべきだ」。1年間の休筆後、文筆業に復帰した夏樹さんは現在、月に原稿用紙で80〜100枚の執筆を心がけ、「無理していないか」「焦っていないか」と常に自分に問いかけている。
「もう一人の自分の『休みたい』という本音を聞き取れば、ためらわずに精神科や心療内科を受診すること。心を病むことは、誰でもありえるのだから」。自身の体験を踏まえてアドバイスする。
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