使用者の安全配慮義務

使用者(会社)の安全配慮義務が初めて大きく注目されるきっかけとなったのが、いわゆる「川義事件」に関する1984(昭和59)年4月10日の最高裁判所の判決です。

最高裁は判決で、雇用契約は労務の提供と使用者の報酬の支払いを基本的な内容とするものの、報酬支払義務に留まらず、労働者の生命や身体を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っているものと解するのが相当と述べ、労働契約上の付随的義務として当然に使用者は安全配慮義務を負うことを明言しています。

自殺者の増加が続く深刻な事態の中で、1999(平成11)年9月、当時の労働省は労災認定基準を緩和し、それに伴い、うつ病など精神障害を理由とする労災認定の請求件数・認定数が急激に増加しています。

使用者の安全配慮義務が一層大きく注目されることとなる事件に、長時間労働による過労からうつ病に陥り自殺したケースの、いわゆる「電通事件」があります。

電通事件についての2000(平成12)年3月24日の最高裁判決では、長時間労働と心身の疲労によるうつ病に関し、次のように述べています。
平成3年7月頃には心身ともに疲労困ぱいした状態になっていたが、それが誘因となって、遅くとも同年8月上旬頃に、うつ病にり患した。そして、同月27日、前記行事が終了し業務上の目標が一応達成されたことに伴って、肩の荷が下りた心理状態になるとともに、再び従前と同様の長時間労働の日々が続くことをむなしく感じ、うつ病によるうつ状態がさらに深まって、衝動的、突発的に自殺したものと認められる。

最高裁判決では、電通の安全配慮義務違反を認めたうえで、審理を尽くさせるため高裁に差し戻しています。最終的には、電通が遺族に対して1億6,800万円を支払うことで和解しています。

使用者が安全配慮義務を怠れば高額な損害賠償責任を負うリスクがあることと共に、職場におけるメンタルケアの重要性を再認識させた事件が、電通事件といえます。

なお、電通事件判決の中で、最高裁は、うつ病について次のように触れています。
うつ病は、抑うつ、制止等の症状から成る情動性精神障害であり、うつ状態は、主観面では気分の抑うつ、意欲低下等を、客観面ではうち沈んだ表情、自律神経症状等を特徴とする状態である。うつ病にり患した者は、健康な者と比較して自殺を図ることが多く、うつ病が悪化し、又は軽快する際や、目標達成により急激に負担が軽減された状態の下で、自殺に及びやすいとされる。

川義事件や電通事件と同様の裁判例の流れを受けて、2008(平成20)年3月1日に労働契約法が施行され、第5条で使用者の安全配慮義務が明文化されるに至っています。

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(2010年1月11日掲載)
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